5代将軍・徳川綱吉が施行した法令。この法令は、一般に、二つの点で誤解されている。まず、「犬」についての法令との印象が強いが、対象はそれだけではない。実際には、鳥類、魚類、牛馬から捨て子にいたるまで、さまざまな生類についての法令が、綱吉政権期を通じて出されており、それを総称して「生類憐れみの令」と呼んでいるのである。また、僧・隆光(りゅうこう)が、戌年生まれの綱吉に、犬を大切にすれば跡継ぎに恵まれるとアドバイスしたとされているが、隆光の日記にそのことは記されておらず、現在では、隆光が綱吉に出会うより前にこの法令が出されていたことが明らかになっている。おそらく、仏教や儒学に傾倒していた綱吉が、秩序の整った社会の維持をめざした「仁政」の一環として施行した法令であると考えられる。また、農村の鉄砲統制や都市の犬害対策の側面もあった。
将軍(しょうぐん)
幕府の主権者で、形式的には朝廷から任命される。正確には征夷大将軍で、大臣を兼ね、正二位に叙された。
儒学(じゅがく)
儒教、すなわち孔子の思想に基づく信仰や教えの体系。