文政7年(1824)に、大坂の本屋・中川芳山堂(なかがわほうざんどう)が出版した、江戸商店のリスト。上・下・飲食の部の3冊からなり、合計2622の商店が収録されている。上巻に文人・大田南畝(おおたなんぽ)の序文があり、江戸のどこにどのような店があるかわからないので、商品購入が便利になるようにこの本ができた、と書かれている。つまり、江戸に不案内な者でも一人で買い物ができるガイドブック、ということである。商店は、扱う商品の種類ごとに「いろは順」で並べられ、「糸物」を扱う「糸物問屋」から掲載が始まり、「乾物」なら「か」の項、「呉服」なら「こ」の項を見れば、その商品を売る店の看板や住所などが書かれている。たとえば、この時代ではとても高価であった「眼鏡」の項目を見ると、浅草駒形町の「美濃屋平六」を筆頭に7店が載せられている。発行者が商店から収載料を取ったかどうかは明らかでないが、当然載せられるべき大商店がなかったり、詳細な宣伝文や図入りで紹介される商店もあることから、収載料を取ったと考えられている。いわば、現代の情報誌の走りのようなものだが、江戸の商人研究における史料的価値は高く、時代小説を執筆するうえでの参考書には最適である。
本屋(ほんや)
書籍の出版と小売を行う業者。江戸時代においては、出版と小売が分離しておらず、本屋は出版と販売を兼ねていた。