江戸時代、庶民にいたるまで旅が盛んになるにつれ、ガイドブックが多く出版された。文化7年(1810)に刊行された、八隅盧庵(やすみろあん)著『旅行用心集』を見ると、旅の用心61カ条、道中所持すべき品、全国の街道の道順など、懇切な解説がある。たとえば、「旅籠を選ぶときは家作りのよいにぎやかなものを選べ、少しぐらい高くてもそれだけの益がある」「旅籠では相宿になることがありがちだが、自分がよく用心すれば大丈夫である」「道中は色欲を慎むべきで、売女には病気があることが多い」などである。また、「道中の荷物はできるだけ軽くすること」「旅籠の行灯(あんどん)は消えやすいので、懐中付木(かいちゅうつけぎ)は必須である」「洗濯物を干すのに麻綱は便利だ」などの心憎いばかりの教えもある。また、携帯すべき薬なども列挙されている。こうした旅行案内記は、名所記とともにさまざまな種類のものが刊行されており、当時の庶民の旅行熱がうかがえる。
旅籠(はたご)
宿場において、参勤交代の大名や勅使(ちょくし)、あるいは幕府役人などが宿泊した本陣、あるいはそれに準じる脇本陣以外の、食事付きの旅宿。