博打の勝敗は偶然に左右されるので、確実に勝とうとすれば、それを意のままに操作して勝ちを得る「いかさま」を行う必要がある。いかさまには、さまざまな手法がある。賽子(さいころ)の賭博では、賽子に細工をしたり、壺笊(つぼざる)に細工をしたり、床の下に仲間をしのばせて裏側から賽子を見て目を変えさせたりする「やり口」が典型的な手法であった。賽子の細工では、「五」「三」「一」の目に針を仕込んでおき、壺笊を引いたときに生じる音の違いで丁半を判断する「鳴針入(なきはりいり)」、「五」「三」「一」の目から黒い粉が出るようにしておき、壺笊を引いたときに残る小量の粉で目を判別する「粉引き」、2個の賽子を細い絹糸でつなぎ、どう転ばせても、丁なら丁、半なら半になるという「都奈技(つなぎ)」など、さまざまな種類があった。賽子の博打と双璧をなす花札では、札に目立たない印を付けるというのが一般的である。ただし、いかさまを行うには、優れた技巧がなくてはならない。いかに巧妙な仕掛けのある賭具を使ったとしても、使う者の技術がともなわなければ見破られてしまう。逆に、熟練した技巧があれば、賭具になんら細工がなくとも、いかさまを行えたという。
博打(ばくち)
賭博のこと。江戸幕府の法令では、賭博は「博奕」と表記された。賭博を打つ人を「博奕打ち」といい、それが「博打」に省略され、次第に賭博そのものを表す言葉となった。
丁半(ちょうはん)
2個の賽子(さいころ)を使って、賽子の出目の合計が偶数(丁)か奇数(半)かを賭ける博打。賭場の元締めとなる胴元(どうもと)はおらず、丁を張る者と半を張る者は賭け金の総額が等しくなければならない。