それぞれ、結い上げた女性の髪を飾る小道具。木製の櫛では黄楊(つげ)がよく用いられ、漆塗りで草花や物語の絵など、さまざまな文様が描かれた。また、金箔や螺鈿(らでん)なども用いられた。鼈甲(べっこう)の櫛は高価で、江戸時代初期には大名の奥方などが使用しただけだったが、元禄(1688~1704)のころには遊女も用いるようになった。鼈甲櫛は斑(ふ)のない飴色のものが高価だったが、斑入りのものが流行した時期もある。象牙や鼈甲に似せた馬や牛の蹄(ひづめ)で作ったものもある。櫛とセットになる装飾品として笄がある。笄は、髪の根元から髪を巻いて髷(まげ)をつくる小道具だが、外に出る両端が装飾として発展した。簪は、珊瑚玉(さんごだま)が付いた玉簪、鼈甲製の簪、金属製で先に珊瑚や鈴などが付いて歩くたびに揺れるびらびら簪などがあった。びらびら簪は、富裕な商人の娘や武家の娘が使用したものと思われる。高級遊女が描かれた絵を見ると、高価な鼈甲製の簪を何本も差している。これは、その遊女の権勢を象徴的に示したものである。
大名(だいみょう)
将軍の直臣のうち、1万石以上の知行(ちぎょう。幕府や藩が家臣に与える、領地から年貢などを徴収する権利)を与えられた武士。