化粧の基本となったのが、白粉である。江戸時代には、一般に鉛白粉が使われた。これを水で溶き、刷毛(はけ)や手で顔から首、襟、胸元まで塗った。化粧法の指南書『都風俗化粧伝(みやこふうぞくけわいでん)』は、京都風の化粧を紹介した本で、「白粉は、まずよく溶くことが大切で、それを手で薄くのばし、眉刷毛に少し水を付けてていねいに何度も刷けば、白粉がよく伸びて光沢が出る」「鼻には白粉を少し濃く塗る」などと教えている。江戸時代の白粉で最も有名な商品は、江戸京橋南伝馬町三丁目稲荷新道の坂本屋から売り出された「美艶仙女香(びえんせんにょこう)」である。所在する地名から、狐(稲荷からの連想)のようによく化ける、といわれた。美艶仙女香は一包み48文で、『江戸買物独案内(えどかいものひとりあんない)』には、「色を白くし、きめを細かくし、“はたけ”や“そばかす”に効き、できものの跡を早く直す」と効能が書いてある。坂本屋は宣伝にも巧みで、浮世絵の美人画などに「美艶仙女香」の包紙がなにげなく描き込まれている。
『都風俗化粧伝』(みやこふうぞくけわいでん)
京都風の化粧を紹介した本で、佐山半七丸(さやまはんしちまる)著、速水春暁斎(はやみしゅんぎょうさい)画により、嘉永4年(1851)に刊行された。
江戸買物独案内(えどかいものひとりあんない)
文政7年(1824)に大坂の本屋・中川芳山堂(なかがわほうざんどう)が出版した江戸商店のリスト。上・下・飲食の部の3冊からなり、合計2622の商店が収録されている。
浮世絵(うきよえ)
江戸庶民が生んだ風俗画で、版画がそのほとんどを占めた。