唇や頬につややかな赤みを差す化粧で、紅花(べにばな)から作られ、色は赤一色である。化粧法の指南書である『都風俗化粧伝(みやこふうぞくけわいでん)』によれば、「紅を付けるときは、下唇には濃くぬり、上唇には薄く付けるのがよく、上下ともに濃いのは賤(いや)しく見える」とされる。「紅を濃く光らせたいときは、まず下地に墨を塗り、その上に紅を濃く付けると、紅の色が青みがかって光る」という。また、「口の大きい女性は、紅を薄く付け、口の小さい女性は紅を濃く付けるとよく、しまりのない顔を引き立てるためには、目の上に少し紅をさすとよい」と教える。江戸後期には、下唇にだけ紅を濃く付けて、笹色に発色させる化粧も流行した。これは、「金一匁(もんめ)、紅一匁」といわれるほど紅が高価で、それをふんだんに使うという遊女の見栄(みえ)から始まったという。笹色とは、濃く付けた紅が乾いた際に黒ずんで青く光る緑色のこと。
『都風俗化粧伝』(みやこふうぞくけわいでん)
京都風の化粧を紹介した本で、佐山半七丸(さやまはんしちまる)著、速水春暁斎(はやみしゅんぎょうさい)画により、嘉永4年(1851)に刊行された。