犯人が死罪に処せられるとき、家屋敷や家財が没収されるとともに、死骸が様斬りにされることになっていた。様斬りは、新しく打った将軍の刀剣の切れ味を試すもので、あらかじめ将軍家の刀剣を管理する腰物奉行(こしのものぶぎょう)から町奉行に連絡があった。試すのは、刀剣の試し斬り役を担う公儀御様御用(こうぎおためしごよう)を職とした山田浅右衛門(やまだあさえもん)である。御様場(おためしば)に土壇を築き、その上に死骸を載せて刀一振りについて一太刀ずつ様斬りを行う。首を切るのは同心の役であるが、切り慣れていない同心は、浅右衛門に代行を頼んだ。首切り役は、金2分の手当を支給されるが、浅右衛門に頼むと、浅右衛門からも礼金があった。これは、浅右衛門が大名や旗本から様斬りを頼まれていて、その礼金の中から同心に謝礼をしたものである。
死罪(しざい)
死刑のこと。正確には、死罪は、斬首のうえ胴を様斬り(ためしぎり)に使用されるもので、単なる斬首は下手人と呼んだ。
将軍(しょうぐん)
幕府の主権者で、形式的には朝廷から任命される。正確には征夷大将軍で、大臣を兼ね、正二位に叙された。
町奉行(まちぶぎょう)
町奉行所の長官で、寺社地と武家地を除く江戸の行政担当者。警察業務や司法業務を日常的に遂行し、消防や災害救助も行った。
同心(どうしん)
町奉行所にて、さまざまな掛(かかり)に分かれた与力のもとに配属される役人。町奉行所には100〜120人ほどが勤務した。
大名(だいみょう)
将軍の直臣のうち、1万石以上の知行(ちぎょう。幕府や藩が家臣に与える、領地から年貢などを徴収する権利)を与えられた武士。
旗本(はたもと)
1万石未満の将軍の直臣で、御目見得以上(将軍に拝謁できる)の者をいい、約5000人いた。