江戸幕府の直轄都市の行政・司法を担当する責任者。中央の三奉行(寺社奉行、町奉行、勘定奉行)と下三奉行(しもさんぶぎょう 普請奉行、作事奉行、小普請奉行)と区別するための呼び方で、遠国奉行という職務があるわけではない。遠国奉行を席次順にあげると、長崎奉行、京都町奉行、大坂町奉行、山田奉行、日光奉行、奈良奉行、駿府町奉行、浦賀奉行、佐渡奉行となる。さらに幕末には、新潟奉行、箱館奉行も置かれた。8代将軍・吉宗の足高の制によって、それぞれ役料や役高が決められており、長崎奉行は役料4402俵1斗、京都と大坂の町奉行は1500石高、山田奉行、奈良奉行は1000石高、日光奉行は2000石高、ここまでは諸大夫(たいふ。大名の家老)役である。駿府町奉行、浦賀奉行、佐渡奉行、新潟奉行も1000石高だが、多くは布衣役で務めた。前職は上位の遠国奉行では目付が多く、弓や鉄砲で戦時の先陣を務める先手頭(さきてがしら)や将軍の身辺の護衛や幕府殿中の警備を務める使番(つかいばん。番方[ばんかた]ともいう)などからも昇進した。遠国奉行を1カ所ないし2カ所務めた後は、中央の奉行に進む者が多い。佐渡奉行は金山の支配を任務とするので、勘定組頭からの栄転もあった。このほか、地方に派遣される職務としては、禁裏(きんり。御所)の警固や朝廷の御用を承る禁裏付(きんりづき)、駿府城の警固を行う駿府定番(すんぷじょうばん)などがある。
幕府(ばくふ)
武家の政府で、もともとは近衛大将や征夷大将軍の居所を指したが、鎌倉幕府以来、征夷大将軍に任じられた武家が政治を行う場所やその政府のことをいった。
寺社奉行(じしゃぶぎょう)
全国の宗教統制や寺社領の管理などを行う役職で、奏者番(武家に関する儀式や典礼を務める要職)の上位者が兼任する。
町奉行(まちぶぎょう)
町奉行所の長官で、寺社地と武家地を除く江戸の行政担当者。警察業務や司法業務を日常的に遂行し、消防や災害救助も行った。
勘定奉行(かんじょうぶぎょう)
勘定所の長官で、幕府財政を担当するとともに、幕府直轄領の民政、徴税、司法にもあたり、定員は4人。
普請奉行(ふしんぶぎょう)
老中のもと、江戸城やさまざまな施設の土木工事をはじめ、整備や管理を務める役職。作事奉行、小普請奉行と合わせて下三奉行と呼ばれた。
作事奉行(さくじぶぎょう)
殿舎(御殿)の建築や修理・修繕、管理などを担う土木関係の役職。普請奉行、小普請奉行と合わせて下三奉行と呼ばれた。
小普請奉行(こぶしんぶぎょう)
江戸城や幕府に関係する施設などの建築や修繕を務める役職。普請奉行、作事奉行と合わせて下三奉行と呼ばれた。
将軍(しょうぐん)
幕府の主権者で、形式的には朝廷から任命される。正確には征夷大将軍で、大臣を兼ね、正二位に叙された。
足高の制(たしだかのせい)
幕府では役職ごとに禄高(ろくだか)の基準があったため、低い禄高の者が高い役職に就任したときに、不足分の石高を在職期間のみ補う制度。
布衣役(ほいやく)
旗本の中で、従六位相当にあり、幕府から布衣の着用を許された者。布衣は典礼・式典のような公式行事の場で着用する無紋の礼装のこと。
目付(めつけ)
幕臣の監察にあたる役職で、江戸城の目付部屋に詰め、老中から幕政の諮問にあずかり、その指示のもと幕臣の身辺の調査も行った。
朝廷(ちょうてい)
天皇が政治を行った政府。数々の儀式や祭祀も行った。