桜の開花ニュースが日本列島を北上し、各地でお花見シーズンとなりました。「お花見は桜の木の下で」と、屋外に出かける人も多いと思います。しかし、吹きさらしの公園や河川敷などはまだ寒さが残っていて、体にとってあまりよい環境ではありません。
この時期、下痢やむくみを訴える患者さんに話を聞くと、前日や前々日に外でお花見の宴会をしていました、というケースがよくあります。気温の低さとともに、ビールなど冷たい飲み物をとることも多いので、なおさら体を冷やしてしまうのです。
「冷え」は、あなどれない不調といえます。以前、患者さんで、店に入って温かい鍋料理を食べたにもかかわらず、冷たいビールやお茶を一緒にとったところ、食後に体が冷えて仕方なかった、という女性さえいたほどです。
とくに今ごろの季節、屋外に長時間滞在していると、最初は寒さを感じなくても、同じ姿勢をとり続けることで血(けつ=血液)のめぐりが悪くなり、手足が冷えたり、背中などにゾクゾクと寒気を感じるようになります。そして、次第に体の芯が冷えていってしまうのです。この場合は、熱が逃げないように防寒着を着用して、冷たい飲食物はなるべく避ける、といった対策が欠かせません。
またお酒に関していえば、「酒は百薬の長」(=適量の飲酒なら、どんな薬よりも健康にいい)とことわざにあるように、ほろ酔い程度の酒量はアルコールが血管を広げ、血行がよくなるので、体を温めてくれます。緊張感を和らげて、陽気な気分にもなります。漢方でいえば、血(けつ)と気(き=エネルギー)のめぐりがよくなった状態です。
古い文献を見ると「お酒と一緒に服用するように」と、記載されている漢方薬もあるほどです。代表的なものでは、腰痛や頻尿に処方される「八味丸(はちみがん)」や、月経不順、月経困難症に用いる「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」が知られています。また、動悸などに対して使う「炙甘草湯(しゃかんぞうとう)」、しもやけ、手足の冷えに有効な「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」などは、「清酒で煎じて服用するように」と指示した文献もあります(もちろん現代では、そういった処方は基本的に行いませんが…)。
しかし、寒いからといって、お酒を一度に多量に飲むと、アルコールの代謝産物で毒性が強いアセトアルデヒドという物質が体内に残り、頭痛、吐き気、胃のむかつきなどが生じます。ですから、屋外でのお花見は、飲み過ぎにも注意が必要といえるでしょう。