冬はインフルエンザの流行シーズン。インフルエンザは、発病すると高熱や筋肉痛など、かぜを重くしたような症状がよく現れます。いわゆる一般的なかぜ(普通感冒)が、複数のウイルスや細菌を原因とするのに対し、インフルエンザは流行性感冒ともいい、本来は野生の水鳥の間で感染していたA型インフルエンザウイルスの変異株による急性感染症です。伝染力が強く、治療が遅れると、脳症や肺炎といった二次感染症で死亡することもあるので、一般的なかぜとは別の注意が必要です。
最も多い感染ルートは、インフルエンザにかかっている人が、せきやくしゃみをすることで、ウイルスが空気中に飛散。それが健康な人の衣類や肌、手などに付着して、上気道に近い鼻、口、目から体内に入ってしまう経路です。ただし、感染している人のそばにいても、うつらない人もいます。こうした違いは、第一に予防対策をしているかどうか、そして「ちょっと変」と思った時の対処法からも生じます。
予防にあたっては、手洗いやうがいで、ウイルスが体内に入らないようにします。特に、繁華街など人が多く集まる場所に行った後や、マスクをしないでせきをしている人のそばにいた時などは念入りに。また、乾燥や寒さといった環境因子に加えて、免疫力の低下、疲労、脱水などの体調不良も誘因となるので、体を温める、食事や飲酒は控えめ、夜更かしをしない、といった生活習慣にも気をつけましょう。
ウイルスが体に入り込んだ時や、暴れ出す寸前には、のどがイガイガする、寒気がするなど「ちょっと変」を感じます。この時点で、体質などに合わせて、漢方薬の葛根湯(かっこんとう)や桂枝湯(けいしとう)を服用すると、ウイルスが体内で本格的に増殖し、重症化することを防ぐことができます。
実際、2009年に大流行した新型インフルエンザA-H1N1を子どもが患ったものの、手洗いやうがいを欠かさず、マスクを着用しながら葛根湯を早めに服用した30代の母親は、感染せずにすみました。
会社の同僚が次々と新型インフルエンザにかかるなか、マスクを着用し、体を温めるよう食事や服装にも気をつけていた20代の女性は、それでも突然、体がだるくなり、のどがチクチクする感じを覚えました。そこですぐに、のどの炎症に効果のある漢方薬の小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)を服用しました。また、以前から疲労回復や免疫力向上に効果のある、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などを服用していたことも幸いして大事にはいたりませんでした。
ポイントは、のどが本格的に痛くなったり、熱が出る前の「ちょっと変」段階で対処することです。
漢方薬の中にも、インフルエンザの治療用として、薬事法で処方が承認されているものがあります。特に新型インフルエンザについては、日本感染症学会が09年9月に発表した診療ガイドラインに、「漢方薬の診療に習熟した医師のもと」という前提で、漢方薬の投与が記載されました。実際の診察では、患者さんの体質や症状に合わせて、麻黄湯(まおうとう)や桂麻各半湯(けいまかくはんとう)などを処方しています。