漢方では、春を風(ふう)の季節と呼びます。春になると、季節風が吹き荒れることが多いため、風自体が体に害をおよぼす原因になると考えます。これを風邪(ふうじゃ)といいます。
風によって飛んでくるスギやヒノキの花粉が、体の免疫系を刺激して起こる花粉症も、風邪(ふうじゃ)の一つです。このほか黄砂、ほこり、排気ガスなども体を刺激する物質となります。
こうした刺激物による影響は、直接、外気にさらされている皮膚に出るケースが多いようです。肌の表面に、荒れてかゆみが出る、赤く腫れる、かぶれる、発疹ができる、などの症状が出たら要注意です。花粉症と同じアレルギー疾患の一つである、アトピー性皮膚炎が悪化することもあります。
春に起きやすい肌荒れを予防するには、外出から帰ってきた際に、手や顔をよく洗う習慣をつけるといいでしょう。
西洋薬での治療なら、症状を楽にするための抗アレルギー薬などが処方されます。また漢方薬にも、例えば十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)といった、じんましんに効用のあるものがあります。こうした治療を、対処療法(漢方では標治法)といいます。確かに、個々の症状の緩和には有効なのですが、中には、もともと風邪(ふうじゃ)に敏感な体質のせいで発症する人がいます。その場合は標治法と同時に、体質そのものの改善も行わないと、一生、風邪(ふうじゃ)に悩まされることになります。
漢方は治療にあたって、体のゆがみを調整し、自然に治癒する力を高めることを目的とします。そのため治療のゴールは、皮膚のかゆみやかぶれをとる標治法にとどまらず、風邪(ふうじゃ)に強い体を作りあげる…つまり体質改善(漢方では本治法)にあるのです。
以前、生理痛で来院した患者さんが、漢方でいう血(けつ=血液)や水(すい=リンパ液など)を調整する治療を受けたところ、長年、悩まされ続けていた春先のアレルギー症状までなくなったそうです。これは、体全体のバランスを整えた結果、風邪(ふうじゃ)に強い体へと体質が改善されたことを意味します。
ただし、体質改善は一朝一夕ではできません。20代のころから花粉症に悩まされていて、今、30代の人なら、体内には10年分のアレルギー因子が蓄積されています。それを改善するわけですから、短期間で症状が変わることを期待するのは、なかなか難しいのです。体質改善にあたっては、症状で悩まされた時間の半分の時間を要するという説もあります。
つらい症状を標治法でしのぎながら、じっくりと本治法につとめることをおすすめします。