夏の暑さと湿気は、しばしば食欲の低下を招きます。暑さで体が汗をかくと、漢方でいう気(き=エネルギー)も一緒に消耗するため、疲れる、だるい、やる気がでない…といった、いわゆる夏バテの症状があらわれます。
さらに、多湿でもある日本の場合は、漢方でいう六気(6種類の気候)の一つ、湿(しつ=湿気)が体内にたまりがちです。余分な水分は、胃腸など消化器系の臓器にダメージを与え、消化不良や食欲不振を招き、疲れやだるさをいっそう悪化させます。
「最近、体重が減ってきたな」と感じた人で、胃がん、膵臓がんといった明らかな原因がない場合は、夏の高温多湿による食欲低下が影響している可能性が高いです。気を補うとともに、余分な水分を体の外に出すように心がけましょう。
まずは、胃腸の調子を整え、食欲を高めることで気を補いましょう。
胃腸は脂っこいものや冷たいものを好みません。精をつけようとして、鰻料理、ステーキ、焼き肉など油分の多い食事をとるのはかえって逆効果です。また暑い時はアイスコーヒー、ビール、ひやむぎ、そうめん、冷ややっこ、サラダなど、飲み物でも食べ物でも冷たくてさっぱりしたものをつい選びたくなるところですが、冷たいものをとる時は、ゆっくり時間をかける、常温に戻すなどの工夫をしてください。
冷ややっこやそうめんなどには、大抵の場合、しそ、ねぎ、生姜、山椒といった薬味が添えられています。これらの薬味には、体を内から温める効果があるものが多く、上手にとれば食欲を増進させてくれます。さらに生姜やねぎには、胃腸の働きを助ける効果もあります。
エアコンなどで体を冷やしすぎないようにすることも大切です。
江戸時代の医師、浅井貞庵(あざいていあん)は、暑気あたり(熱中症)について、「暑さだけでなく、湿も原因となっていて、十のうち七、八は、寝冷え、納涼や冷飲食などで身体を冷やすことによる」(『方彙口訣』より)と解説しています。
エアコンも冷蔵庫もなかった江戸時代に、すでに冷えが体におよぼす悪影響が指摘されているのです。文明が発達して、汗をかく機会が少なくなった現代人にとっては、耳の痛いところといえるでしょう。
汗をかかないと、体の中に湿がいっそうたまり、余分な水分によって体がさらに冷えやすくなってしまいます。例えば豆腐、春雨、そば、もやし、スイカ、レタスなどは体の水はけを助ける食材です。しかし、エアコンが効いた中でこれらの食材をとると、体の熱まで奪い去ってしまうケースもあるので、調理の可能な食材については、生のまま食べずに、煮たり炒めたりして、火を通すようにしましょう。