世間は忘年会シーズン真っ盛りですね。仕事のつきあいで、またプライベートで、酒食の集まりが増えるこれからの季節は、とかく食べ過ぎになりがち。毎日のように流れる胃腸薬のテレビコマーシャルも、この季節ならではの風物詩といえるでしょう。
漢方では、食べ過ぎて胃腸に負担がかかると、五臓の一つである「脾(ひ)」が傷つくと考えられています。脾は、日々のエネルギー(気)を作り出している臓器。食べ過ぎでその機能が衰えると、エネルギー不足の体になってしまうのです。
とくに冬場は、寒さから身を守るため、体に必要な総エネルギー量が、夏の間よりも10%ほど多くなるといわれ、ただでさえエネルギーを費やす季節。そのうえ忘年会などでたくさんの量を一度に飲み食いすると、それらを消化、吸収するのにも余分なエネルギーが必要とし、ますます燃費が悪い状態になります。そのぶん、体の中でせっせとエネルギーを作り出せば問題ないのですが、食べ過ぎで脾の機能が衰えてしまっていては、エネルギーは枯渇する一方。やがてはガス欠状態になってしまいます。
体内のエネルギーが不足すると、免疫力の低下を招き、かぜなどの病気にかかりやすくなります。といって、そのような状態で「元気をつけよう」として、やたらと栄養のある、油っこい食事をとっても、胃腸が弱っているので効果がありません。まずは胃腸を休めることが大切です。
胃腸を気づかいつつ、酒食を楽しむのなら、例えば鍋料理はいかがでしょう。野菜を主体に魚や肉など、様々な食材をバランスよくとれるうえ、よく煮込んであるので消化、吸収もよい。何より体を温めることができます。忘年会にもぴったりですね。
日々の食事では、油っこいもの、甘いもの、生もの、冷たいもの、辛いものをとり過ぎないよう注意しましょう。それぞれの頭文字をとって、「あ」「あ」「な」「つ」「か」=「(冬だけど)ああ、夏か」と、覚えると簡単です。
何よりも胃腸を丈夫にする基本は、腹8分目を守ること。腹8分目はエイジング(老化対策)にも効用があります。ある医師が、満腹になるまで餌を食べさせたネズミと、腹7分目までしか食べさせなかったネズミとで比較実験を行ったところ、餌を抑えたネズミのほうが長生きしたそうです。
そうして年を越したら、お正月に食べるおせち料理にも注意しましょう。おせち料理は日持ちがするよう、普通より濃い味つけになっているので、食べ続けていると胃が疲れるのです。胃腸にやさしい「七草粥(ななくさがゆ)」を、1月7日に食べる風習は、邪気を払い、万病を除くという意味とともに、医学的にも理にかなっています。
七草の一つセリには、体内にこもった余分な熱を冷まし、利尿作用があります。ナズナにも、利尿作用や毒消し効果があるなど、それぞれの草自体に効能があります。
こうした養生を実践して、胃腸薬に頼らない年末年始をエンジョイしてください。