春になると、何となく気分がのらない、やる気が起きないといった症状を訴える患者さんが少なくありません。中には「うつ病になってしまったのでは?」と、不安に思う人さえいます。実際には心の病気にかかっていなくても、「プチ憂うつ」になりやすいのが、春という季節がもつ特徴です。
漢方には、自然の変化を木(もく)・火(か)・土(ど)・金(ごん)・水(すい)の5つに分ける、五行説(ごぎょうせつ)という考え方があります。このうち春は木(もく)にあたり、冬型の蔵む(きすむ=大切におさめる)生活機能はなりを潜め、木が空に向かってグングンと伸びていく様のように、万物は生きいきと活動をし始めます。そうして草花は芽吹き、虫たちも地中から顔を出します。
人間にとっても同じことで、やる気や元気である陽(よう)の気が高まり、エネルギーは満ち、生命力あふれる季節なのです。にもかかわらず、プチ憂うつになりやすいのは、春のもつあまりにも強いエネルギーに心身がうまく対応できず、体内の気(き=エネルギー)のめぐりが悪くなってしまう場合があるからです。
とくに中高年の場合は、加齢による老化の影響で、冬から春に限らず、四季の変化になかなかついていけないことが多く、季節の変わり目に不調を覚えることが多くなります。春先に訃報が多くなるのも、このような影響があると考えます。
「何となく憂うつだな」と思ったら、日常生活で気(き)のめぐりをよくするようにつとめましょう。
まずは汗をかくようにします。ストレッチ、ウォーキング、ジョギングなどといった運動のほか、入浴で汗をかくのも手っ取り早いです。
食生活では、香りの野菜(セロリ、みつば、ミントなど)を香り成分が飛ばないように料理に取り入れるほか、柑橘類も気の流れをスムーズにし、リフレッシュさせてくれます。また、ミントティーやジャスミンティーなど、香りのある茶葉で、自分が気持ちよく感じるものを選ぶのもいいでしょう。
ちょっと憂うつな気分になったとしても、ご自分だけで悩まないようにしてください。春という季節がもつ、力強い環境の変化によるものであり、誰にでも起こりうるのです。