春になると、万物が活発に動き出します。人間の体も同様で、この季節にはあらゆる機能が活性化し始めるのですが、その一つに胃酸分泌量の増大があげられます。
この現象は、自分の意思に関係なく呼吸、心拍、循環、消化などの機能を制御している自律神経の一つである、副交感神経の働きによって生じます。冬の間は、体から熱をなるべく放出しないよう交感神経が優位に働きますが、春になって気温が上がると、体の緊張が解けて、リラックス神経と呼ばれる副交感神経が優位に働く。すると反射的に胃酸の分泌が促進されるのです。同様に食休み中、就寝中も胃酸は多く分泌されます。
胃酸は、食べた物の消化を助ける働きをしますが、分泌が増えることで積極的に消化ができるかと思いきや、普段から胃腸の働きが弱い人の場合は、胃酸過多の状態になってしまいます。その結果、胃の裏側や背中のあたりがこるような不快感を覚えるのです。
春になると、背中の胃の後ろ部分に手をあてていたことが多い、といった経験はありませんか? それは、胃腸が弱っているせいかもしれません。
胃の裏側や背中のあたりが不快な人は、食後少したってから、胃の裏側の、背骨から指幅2本分外側にある「脾兪(ひゆ)」と呼ばれるツボのあたりを中心に指圧してみてください。もし症状が楽になるようなら、胃酸過多によるこりです。
こうしたこりの症状がひどくなると、胸やけ、胃もたれなどが現れます。さらには、食欲がなくなる、物を食べると余計に疲れがたまる、というようなこともあります。ですから、春先は「胃の裏のあたりがこりやすい時期」と認識して、胃腸の働きを意識的にととのえるようにしましょう。
ある30代の患者さんは、毎年、決まって4月ごろに胸やけや胃もたれ、背中の張りを訴えてきます。そこで、その時期だけ胃腸の働きをととのえる漢方薬を服用してもらい、先ほどの「脾兪」のツボ押しをすすめたところ、最近は、以前のような胃腸の不快感は覚えなくなった、といっていました。
日常生活の中で予防するなら、過労や睡眠不足を避け、中高年の人ならある程度は年齢を意識して、今まで以上に休息の時間を増やすよう心がけるといいでしょう。
食事にあたっては、「腹八分目」「バランスよく」「規則正しく」を守り、胃腸に余分な負担をかけないようにします。食事量の割合は、朝食:昼食:夕食=10:8:6を目安にします。「脂っこいもの・甘いもの・生もの・冷たいもの・辛いもの」(あ・あ・な・つ・か=ああ夏か、と覚えます)も、胃腸に負担をかけるので、とりすぎないようにしましょう。