やる気や元気をもたらす陽気(ようき=エネルギー)が高まる春は、上半身の不調を訴えやすいのが特徴です。「体は疲れているのに、頭がさえて眠れない」という、この時期に特有の不眠も、その一つといえます。本来ならば「春眠暁を覚えず」のことわざもあるように、春の夜は暑からず寒からずで寝心地がいい。にもかかわらず、眠れないのは辛いことです。
頭部を含め、上半身に不調が現れやすいのは、春の陽気が「肝(かん)」に影響を与えるからだと漢方では考えます。五臓六腑の一つである肝(かん)は、西洋医学でいう肝臓の働きのほか、血液の貯蔵や調整、自律神経の働きにも関係しています。
春の陽気の高ぶりは肝(かん)の働きをも高ぶらせます。そうして過度に高ぶると、肝臓に貯蔵されるべき血液が収まりきらず、陽気とともに上昇し、上半身にのぼってしまうため、不眠、のぼせ、めまいといった症状が出ます。
一方で春の養生の基本は、草木や野生動物が冬眠から覚め、活動を始めるように、人間も活動的になって、体内にためていたものを発散させることにあります。ですから前夜よく眠れなかったからといって、休日に寝床でだらだらしていては、すっきりとしないばかりか、かえって睡眠リズムを狂わせる可能性もあります。
春の不眠対策は、体内にたまった悪いものをとり除いてから、十分な睡眠をとるOUT&INケアをおすすめします。これは漢方で「瀉法(しゃほう)」という、邪気をとり除いて余分なものを排出する治療法と、同じく「補法(ほほう)」という、正気をとり入れる治療法を応用した養生です。
まずは運動や入浴などで汗をかき、便通を整えて、体内から不必要なものを外に出します。そうして心身をリラックスさせたうえで十分な睡眠をとれば、肝(かん)の働きの乱れを整えることができるでしょう。
INケアは睡眠のほか、食事でも可能です。
肝(かん)の働きを正常に戻すには、酸味の食材が有効。梅干し、酢、かぼす、レモン、すもも、サクランボ、リンゴなどが代表的な食材とされています。お酒の席では、酢の物など酸味のある料理を食べるほか、レモンやライムなど柑橘類のフレッシュジュースを加えたフルーツ割りのお酒、梅酒を選ぶといいでしょう。
また、春の季節に芽を出す竹の子、ふきのとう、木の芽など苦味の食材は、体を冷ます作用があるので、肝(かん)の高ぶりによるのぼせ、めまい、ほてりなどを鎮める効果があるといわれています。ぜひ活用してみてください。