夏になると、寝冷えやかぜなどで、お腹をくだす子どもがいます。ところが大人の中にも、この季節は下痢を訴える人が少なくありません。ほとんどは夏バテが原因で、胃腸の働きが悪くなり、細菌やウイルスへの抵抗力(腸免疫)も低下して、その結果、お腹をくだしてしまうのです。
下痢とともに食欲不振、悪心(おしん)、おう吐、腹痛などの症状を示す場合は、急性感染性腸炎という病気の疑いがあるので要注意です。
感染性腸炎とは、いわゆる食あたり=食中毒のこと。細菌性とウイルス性に分けられます。高温多湿の気候は、食中毒を引き起こす細菌が増殖するのに絶好の環境。そのため夏になると、細菌性の食中毒が急増します。
食中毒を起こす細菌では、腸炎ビブリオ、サルモネラ、病原性大腸菌、ブドウ球菌などが有名ですが、聞いたことがある人も多いでしょう。厚生労働省の統計によると、このうち食中毒の原因として近年増えているのは、鶏卵や鶏肉(食肉)から感染しやすいサルモネラ、イカや貝類など生の魚介類から感染しやすい腸炎ビブリオです。
サルモネラは、調理時にしっかり火を通すことで、感染予防できます。しかし海水に広く分布している腸炎ビブリオについては、日本人が刺し身やすしなどを食べる習慣がある以上、感染の機会が減らないと考えられます。
感染すると食後10~18時間後に、お腹の上の部分に激しい痛みを覚え、下痢や発熱などの症状が出ます。
西洋医学では、感染性腸炎の治療には、輸液(点滴)などの対症療法のほか、原因菌別に抗菌薬を処方します。しかし強い抗菌薬は、宿主の健康維持に貢献している善玉菌と呼ばれる腸内細菌も殺してしまい、腸内環境を悪化させることがあります。そのため治療には、医師の判断が必要です。
漢方薬の中にも、食あたりの腹痛に効果があるもの、胃腸機能を高めて腸内環境の改善に効果があるものがあり、西洋薬と併用することもあります。たとえば五苓散(ごれいさん)、柴苓湯(さいれいとう)、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)などは、下痢や腹痛を改善します。漢方薬と西洋薬の両方を使うと、胃腸機能を回復させ、免疫力を高め、下痢などでダメージを受けた体の回復を早めることが期待できます。
夏場の食中毒菌感染を防ぐには、(1)生食材を常温で長時間放置しない、(2)鮮度が不明なら加熱して食べる、(3)調理や食事の前には手をよく洗う、といった点に気をつけましょう。そのうえで夏バテにならない、食中毒にかかりにくい、丈夫な体づくりのための養生に日ごろから励むことが何よりの予防法です。