暑さによる寝苦しさから解放される秋は、健康な人にとっては、ようやく睡眠不足を解消できる待ちに待った季節です。ところが体や心の不調などで、思うように眠りにつけない人には、秋の夜長が、かえって辛く感じるものです。
一日の終わり、布団に入ってもなかなか寝つけないのは、自律神経の切り替えがうまくできていないことが主な原因です。自律神経には、体を活動的にする交感神経と、リラックスさせる副交感神経があり、眠るためには、交感神経から副交感神経へのスムーズな切り替えが必要なのです。しかし、日々の暮らしの中で、脳がストレスや生活リズムの乱れを感知すると、自律神経の働きが阻害されてしまいます。
そのうえ秋は、草木も枯れ、何となくもの悲しくなる季節。気分がふさぎ込み、布団に入ってもあれこれ考え込んでしまうなど、憂うつな気分に陥る人も少なくありません。季節がもたらす心理的な要因も自律神経に影響を与え、頭がもやもやして眠れなくなってしまう場合もあります。
不眠は、睡眠導入剤などで解消することもできますが、眠気が長く残るといった副作用が現れる場合があります。また、薬で一時的に眠れるようになっても、大元の原因である自律神経の働きを正常にしなくては、自然な眠りを取り戻したことにはなりません。
漢方では、自律神経の働きは「気」にかかわると考えています。気とは、体内をめぐる生命エネルギーのこと。その流れに乱れが生じると、自律神経の切り替えもうまくいきません。まずは、気の流れをよくしましょう。これは一時的なうつ症状などで、不眠を引き起こしている人にも有効です。
気をめぐらすのに効果があるのは、香りのある食べ物です。しそ、みつば、クレソンなどを積極的に食事に取り入れてみましょう。またペパーミント、ローズマリー、タイムなどのハーブ類を料理に使うだけでなく、お茶にして香りを楽しんだり、お風呂に入れてもいいでしょう。
このほか、眠りに入りやすい環境を整えることも大事です。就寝前にはパソコンやテレビゲームなどの強い光を避け、カフェインを控えます。寝酒は、逆に脳を興奮させるといわれています。体を冷やしすぎてもいけません。眠気は体が放熱して、体温が下がっていく過程で生じます。秋の夜の冷気で体が冷えてしまい、放出できる熱がない場合は、眠気を催すことが難しくなります。寝る前にお風呂に入って、体を温めておくのが有効です。
さらに、朝起きたら朝日を浴びることも忘れずに。人間の体内時間は、実は25時間周期で、毎日、朝の光を浴びることで体内時計を24時間にリセットしているといわれています。めざすは「日中元気で、夜はぐっすり」です。