かぜでもないのに、無性にせきがでる…という症状を、秋から冬によく見かけます。これは、空気の乾燥(漢方でいう「燥」)と、気温の低下(漢方でいう「寒」)が相まって生じる症状です。
漢方では、鼻や口から吸い込んだ乾いた空気が体内に入ると、五臓の一つ「肺(はい)」が侵されると考えます。肺は、西洋医学でいう呼吸器官の肺臓だけなく、そこから影響を受ける皮膚、鼻といった呼吸器系全般にかかわり、水分代謝にも関係しています。肺を傷つける乾燥した空気は、鼻や気管の機能を低下させます。
また、朝晩の冷え込みなどによる気温差も肺を傷つけ、せき、痰、くしゃみ、鼻水といった呼吸器系器官のトラブルを招くことになります。放っておくと、気管支炎、ぜんそく、肺炎を誘発させ、肺の内部にまで影響をおよぼす危険性があるので、要注意です。
日常の中でできる対策として、居室には加湿器を設置し、なるべく空気を乾燥させないようにします。室内に洗濯物を干す、観葉植物をたくさん飾る、入浴後にお風呂のドアを開けておく、といった方法でもある程度の加湿ができます。職場などの場合は自宅と違って、気軽に加湿できないので困るところですが、最近では机の上に置ける小型加湿器もあるようです。
もっとも簡単なのは、乾燥した空気が体内へ入ってこないよう、常に気管を潤わせておくことです。のどを潤す程度でかまいませんから、水やお茶などを飲む回数を増やして、こまめに乾燥を防ぎましょう。睡眠用マスクをするのも効果があります。
乾いた空気や寒さで弱った肺の働きは、食事によって助けてあげましょう。五臓と味覚は密接な関係にあって、肺は適度な辛みがその働きを補います。
辛み食材としては、ねぎ、生姜(しょうが)、わさび、唐辛子、大根、玉ねぎ、しそ、にらなどが挙げられます。さらに日本酒、焼酎、ウイスキーなど、ビール以外のアルコール類も辛み食材に分類されています。
したがって、せきが気になる時は、例えば、焼き魚に大根おろしを添える、焼き鳥に七味唐辛子をかける、うどんに刻みねぎやわさびのせる、大根やレンコンなど根菜を煮物にする、といった工夫で肺をいたわりましょう。
辛み食材以外にも、肺の働きを補うものがあります。とりわけ代表的なのは、中国で「百果の長」と珍重されている梨や、「赤くなると医者が青くなる」といわれる柿です。いずれも、のどの乾きを止め、呼吸器系の働きを助ける役割があります。またのど飴に使われるカリンも「花梨」と書くように(中国名は木瓜)、梨の仲間で、せき止めやぜんそくの緩和に効果があるといわれています。
ただ、辛み食材をとりすぎると、肝臓を含めた漢方でいう「肝(かん)」を痛める危険性があります。また、梨の仲間には体を冷やす性質があります。どんな食材も、とり過ぎにはくれぐれも注意です。