漢方では、冬を「蔵する季節」ととらえます。冬の間は、多くの野生動物が、生きるためのエネルギーを奪われないよう冬眠や冬ごもりをするように、私たち人間もエネルギーを蔵む(きすむ=大切におさめる)必要があります。
冬の暮らし方について、中国最古の医学書といわれる「黄帝内経(こうていだいけい)」には、以下のように記されています。
「冬の3カ月は万物の生活機能が潜伏閉蔵する季節。この時期には、人は陽気をかき乱してはならない。少し早く眠り、少し遅く起きるべきである。心を埋め伏し、しまい隠しているかのように安静にさせる。厳寒を避け、温暖に保つ」
冬場は、こうした生活習慣を心がけて、ようやく健康を保てるわけで、同書にはこのほか、「この道理に反すると、腎気を損傷し、来春になって病を発生し、人が春の生気に抵抗する能力を減少させてしまう」ともあります。つまり、冬に適した養生を怠ると、春にツケが回ってくるという意味です。
「腎気(じんき)」とは、五臓の一つ「腎(じん)」のエネルギーという意味です。漢方でいう「腎」は、臓器としての腎臓だけを指すだけでなく、水分代謝、内分泌系機能、成長、発育、生殖、老化などに関係しています。
冬は寒さから身を守るため、普通の生活をしていても、夏より10%ほど多くのエネルギーを使ってしまいます。ですから腎気を補いながら、エネルギーを無駄遣いしないよう心がけましょう。
腎気を補うには、山芋、納豆、なめこといったネバネバ食品や、塩、みそ、しょう油など塩辛い味の食材がおすすめ。加えて感情のコントロールも大切です。漢方では、五臓六腑と感情とは深く関係していると考えます。驚き過ぎは、腎を傷つけ、精神が不安定になります。また、恐れ過ぎも腎を傷つけ、失禁などを訴えるようになります。
冬の養生を怠ったせいで、春になって困ることの代表例は花粉症です。症状がひどくなったり、今まで花粉症ではなかった人が、発病してしまうことがあります。
スギ花粉がアレルゲン(原因物質)である花粉症の患者さんは、花粉が飛び始める2月下旬ごろから、激しい症状に悩まされます。しかし、漢方の考え方からいうと、症状が出る前の冬の過ごし方こそが花粉症対策には大事なのです。
冬の養生は、冷え症(冷え性)の改善、体の免疫力アップにつながります。冷え症(冷え性)の人は冷えを改善することで、体のバランスが整います。免疫力が高まればアレルギー体質の改善にも役立ちます。そして結果的に「アレルゲンに過敏に反応しない体」となり、花粉症の症状も和らいでいきます。
長年、花粉症に悩んでいた患者さんでも、冬場の養生で体質を改善したことにより、症状をまったく感じなくなった人は多いのです。