私たちの体は寒さを感じると、体内に熱をとどめようとして、手や足などにある末梢の血管を収縮させ、血管から熱が出て行くのを防ぎます。その結果、一時的に全身が血行不良状態になってしまいます。冬になると、日ごろあまり肩がこらない人でも肩こりを気にするようになる、普段から肩こりを感じている人に至っては、さらにひどくなったり、背中まで張ってしまうのは、そうしたメカニズムのせいでもあります。
とはいえ、肩がこるのを理由に、病院へ診療に行く人はあまりいません。そもそも「肩こり」は病気の名前ではなく、首から肩にかけて感じられる、筋肉の緊張や不快感、鈍痛といった自覚症状の総称です。漢方では「血(けつ)」(血液)のめぐりが悪い、「お血(おけつ)」の状態で生じやすいと考えています。
肩こりを放っておくことは、お血の状態のままでいることと同じ。悪化すると、おう吐やめまい、頭痛などの原因となります。日常生活の中で肩こりを解消するには、それぞれの体質によって、分けて考えたほうがいいでしょう。
漢方で「実証(じっしょう)」と呼ばれる、体格ががっしりとしていて、胃腸が丈夫な人は、首や肩を動かすなどのちょっとした運動で血行をよくすると、肩こりも改善していきます。
漢方で「虚証(きょしょう)」と呼ばれる、胃腸が弱く、青白い顔色の人は、「血」のめぐりをよくしただけでは、なかなかうまくいかないので、胃腸を丈夫にしたり、筋肉を強化するなどの措置も必要になります。
最近では、目が疲れやすくなる、肩がこる、といった症状を訴える人の中には、パソコンなどの普及に伴うVDT症候群(visual display terminal syndrome)にかかっているケースが多いようです。パソコンのディスプレーなどを長時間見続け、目の筋肉が緊張することで、血流が悪くなり、肩がこってしまうのです。パソコンのキーボードを同じ姿勢で長時間たたき続け、腕や背中、首が硬直して肩こりが生じることもあります。
その場合は、一定時間おきに目を休ませること、ストレッチなど軽い運動をすることを習慣づけましょう。血行をよくし、筋肉の働きや目の疲れに効果のある養生も必要になります。目の疲れには、漢方薬にも使われている「菊花(きくか)」が効果的です。食用菊のおひたしなどでも代用できます。クコの実は、目の疲れからくる肩こりに効果があるといわれています。
また、目の周辺には、「攅竹(さんちく)」(眉毛の内端にあるくぼみ)や「太陽(たいよう)」(こめかみのくぼみ)といった、目の疲れを取り除くツボが多く集まっています。目の周りはデリケートなので、やさしく押してみましょう。
肩こりがとくにひどい場合は、ひじの内側にある「曲池(きょくち)」というツボを押すと効果があります。