漢方では、秋は「気を補って、冬に備える季節」としています。「気」とは、生命活動の源、つまりエネルギーのこと。これから迎える冬の寒さに立ち向かって乗り切るのに、私たちの体は、とても多くの気を必要とします。そのため、秋のうちにたっぷりと蓄えておく必要があるのです。
秋の養生の基本は、「肺(はい)」を強くして、気を補うことといえます。
中国最古の医学書といわれる『黄帝内経(こうていだいけい)』には、秋の暮らし方について、こう記されています。
「秋の3カ月は、万物が成熟し、収穫の季節。人々は当然、早寝早起きをすべきである。心を外に働かせないで、肺気(はいき)を正常に保持しなければならない。これが気を保養する道理だ。この道理に反すると、肺気を損傷し、冬になって食物を消化しきれないで下痢を病んでしまう。人が冬に備えて、気を蓄える能力を減少させてしまう」
漢方でいう「肺」は、心・肺・脾・肝・腎からなる五臓の一つで、肺臓だけでなく、その影響を受ける皮膚や鼻、大腸をも含めた概念。肺気は、それらに関する免疫力を指します。したがって、肺気が正常でないと、外気の乾燥で肺臓が侵され、皮膚や頭髪の乾燥、せき、鼻づまりなどが起こり、冬場の体調に響くというわけです。
漢方では、五臓と味覚は深い関係にあると考えます。
肺と関係が深いのは「辛味」。ねぎ、生姜、わさび、唐辛子といった薬味や香辛料のほか、大根、玉ねぎ、しそ、にらなどの野菜、日本酒、焼酎、ウイスキー、ワインなどビール以外のアルコールも辛味に属します。これらは、体を温めて気の流れをよくするため、外気の乾燥や気温の低下によって、働きが弱まった肺臓や気管支などの負担を和らげる効果があります。
しかし一方で、辛味は五臓の「肝(かん)」に対して、働きを抑制する方向に作用します。例えば、辛味であるアルコールをとりすぎると肝を痛めます。そこで、アルコールなどの辛味を多くとる時には、肝を補う「酸味」の食物を一緒にとるといいでしょう。
さらに気を補うにあたっては、よい生活習慣が欠かせません。基本は気を補うこと=休息なので、まず十分な睡眠をとるようにします。朝、起きたら朝食をとり、一日のエネルギーをチャージしましょう。また、仕事や勉強で根をつめて頑張りすぎると、気が余分に減ってしまいます。この季節は過労状態に陥るのを避け、労働はなるべく分散させましょう。激しい運動もひかえます。無理は禁物です。
気を効果的に補う食材としては、旬のキノコ類がおすすめ。空気の乾燥とともにウイルスなどに対するバリア機能が弱まる秋に、免疫力を高め、病気になりにくい体作りの助けにもなります。