疑いを抱いて物事を憶測すると、なんでもないことにまで脅えることがあることをいう。むかし中国の河南で役人をしていた楽広という人が、無二の親友の足がばったりと途絶えたので、理由をただしてみたところ、かつてごちそうになったおり、杯の酒に蛇(へび)の影が映り、それがもとで寝ついてしまったという。これを聞いた楽広は、もう一度、その客を招待してごちそうし、同じように酒を注いで蛇影が映るか問うたところ、見えるという。調べると壁に掛けておいた弓が映っていたのだ。以来、その親友の病気は、けろりと治ったという故事による。
〔類〕疑心暗鬼を生ず
〔出〕晋書(しんじょ)
〔会〕「ここのところおれ、仕事で夜が遅いだろ。女房のやつ、浮気でもしてるんじゃないかと疑ってさ、昨夜なんかほら、この虫刺されの跡をキスマークと勘違いしちゃって……」「ははは。杯中の蛇影(じゃえい)ってやつだ」