一度こぼれた水を、再び盆に戻そうとしても不可能である。いったん実行したことは、取り返しがつかないことをいう。中国の周の時代、若き日の太公望は貧乏な暮らしをしながら、読書にばかりふけって、生計を顧みようとしなかった。これを見た妻は、夫のもとを去っていった。のちに出世して斉に封じられた太公望のところへ、別れた妻が復縁を迫ってきた。このとき、盆に入っている水をこぼした太公望が「この水を盆に返してみよ、それができたら望むとおりにしよう」と答えたという故事による。
〔類〕縁と命はつながれぬ/破鏡再び照らさず/落花枝に還(かえ)らず破鏡再び照らさず
〔出〕後漢書(ごかんじょ)/拾遺記(しゅういき)
〔会〕「遅れてすみません。家を出るときに靴下をはき違えて、おまけにネクタイを締め忘れまして、電車に乗り遅れてしまいまして」「覆水(ふくすい)盆に返らず。素直に謝りなさい」