じつは、「土用」は四季ごとにある。春夏秋冬、各季節のラスト18日間が「土用」なのだ。では、なぜ「夏の土用」が「土用」の代名詞のようになってしまったのか。それは、夏の土用が農作業の中で重要な時季に当たるからである。
夏の土用は、立秋の日の前の18日間ということになる。したがって、7月21日あたりが「土用入(どようのいり)」。「入」があるのだから、「土用前」もあれば、「土用中」「土用明(あけ)」もある。
さらに、人名での呼称もあって、土用入の日が「土用太郎」、それに続く日が「土用次郎」「土用三郎」となる。そして、この「土用三郎」の日の天気で、最も気になる秋の収穫の豊凶を占ったという。
土用関連の言葉のうち、一番よく知られているのが「土用鰻」。一年のうちで最も体力を消耗する時季に、活力源として鰻を食べようという習慣だ。この「習慣」、江戸中期に鰻屋さんが売り上げ増をもくろみ、天才・平賀源内に宣伝戦略を頼んで以来のこととか。源内先生、エレキテルだけではなく、コピーライターとしても天才だったのだ。ちなみに源内にこういう一句がある。
「湯上りや世界の夏の先走り」
この時代の人で「世界」という言葉を使っていることに驚愕する。さすがに先走り、早く生まれすぎた大天才である。
鰻に活力源を求めたのは万葉人も同じ。大伴家持に、次の有名な歌がある。
「石麻呂(いしまろ)に我物申す夏痩せによしといふものぞ鰻(むなぎ)捕り喫(め)せ」
痩せている石麻呂に対して、からかい気味に鰻を勧めているのだが、胸の黄色い天然もの(むなぎ)は、現代では超高級魚となった。
土用は、代表的な晩夏の季語だが、他に食物で「土用蜆(しじみ)」、気象で「土用波」「土用凪(なぎ)」「土用東風(こち)」、人事で「土用見舞」「土用灸(きゅう)」などがある。妙に「土用」は人なつっこい。