七草(ななくさ)といえば、「秋の七草」だけでなく、「春の七草」といって、正月7日にお粥(かゆ)にして供するものがある。そのように、正月の七草のほうは7種の「菜」であり、食べるほうにつながっていく。
一方、秋の七草は、あくまで「草花」。秋に咲く野花の中から代表的なものを7種挙げて「七草」という。
その七選は、「万葉集」中の山上憶良の歌による。つまり、
「萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝顔の花」
歌に詠(よ)まれている順に花の名前を挙げれば、ハギ(萩)、ススキ(薄)、クズ(葛)、ナデシコ(撫子)、オミナエシ(女郎花)、フジバカマ(藤袴)、アサガオ(朝顔)の7種となる。
ただし、ここで詠まれているアサガオについては諸説あり、そのまま今のアサガオだとする説、他にムクゲ説、ヒルガオ説、さらにキキョウ説がある。たとえば代表的な辞書である広辞苑では、秋の七草のアサガオは今のアサガオとは別の植物とし、キキョウを秋の七草の一つと記しているが、諸説のなかではこのような秋の七草のアサガオ=キキョウ説が有力の形勢である。
いずれにせよ、七草ともに日本全土、少なくとも関東以南ではおなじみの草花であり、多くは東アジアに広く分布している。
ススキはオバナともいい、「幽霊の 正体見たり 枯尾花」などの言い回しがよく知られている。クズは、その根から葛粉を作り、それが葛餅や葛切りなどの食べ物になる。また、ご存じの漢方薬「葛根湯(かっこんとう)」の主原料も、文字通りクズの根である。
オミナエシは女郎花と書く。漢字検定好みの表記だが、女郎は上臈(じょうろう)の変化した語で、つまり上品で身分の高い女性の意か。西行も「たぐひなき 花のすがたを女郎花 池の鏡に うつしてぞ見る」と詠んだ。女郎花に似た姿形の草花にオトコエシがあり、こちらは男郎花と書く。星野立子はその二つの花を見事に詠み切った。
「女郎花 少しはなれて 男郎花」