月の形、つまり月の満ち欠けに対する呼称で、満月とともに好まれてきたものに、三日月がある。若月とも書き、眉月(まゆづき)、あるいは月の船などとも呼ばれて、日本の詩歌の中に多く詠(よ)まれてきた。「三日月の にほやかにして 情けあり 高浜虚子」「振りさけて 若月見れば ひと目見し 人の眉引き 思ほゆるかも 大伴家持」「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に こぎ隠る見ゆ 柿本人麻呂歌集」
秋の俳句歳時記でいえば、初月(はつづき)は陰暦の8月初めの頃の月の総称だが、三日月は文字通り8月3日の月。天文学的には新月は朔(さく)の月、第1日の月で、従って三日月もそのまま新月から3日目の月ということになる。ただし、俳句で新月といえば三日月のことも指すことになっている。
世界的にみれば、満月よりもこの「三日月形」を好む地域があるようで、とりわけイスラム圏では、トルコを始めパキスタン、アルジェリアなどが国旗にくっきりと三日月形を描いている。
イスラム圏といえば、月の満ち欠けを基にした、純粋太陰暦を用いていることでも知られるが、月つながりの話題でいえば、いわゆる赤十字社もイスラム圏では「赤新月社」となっている国が多い。たとえばトルコでは、あの赤十字のマークが赤い三日月のマークになっている。
三日月は英語で「クレッセント(crescent)」。次第に大きくなるとの意があるが、音楽用語のイタリア語「クレッシェンド(crescendo 次第に強く)」も同根なのだろう。そして、この「クレッセント」はフランスパンの「クロワッサン」にもつながっていく。
三日月形のパン「クロワッサン」は、17世紀に時の強国オスマン・トルコがウィーンに侵攻した際の副産物という伝承がある。このときのウィーン守備隊がトルコ軍のシンボル「三日月」を見て、その形のパンを焼いたのがクロワッサンの発祥だ、とのことである。
日本では、お月見の団子はまん丸。残念ながら三日月形の団子は見たことがない。