「中秋(ちゅうしゅう)の名月」は、陰暦8月15日の月のことをいう。現在の陽暦でいえば、9月の下旬ということになろうか。
旧暦においては7、8、9月(およそ現在の8、9、10月)が秋に当たる。さらに、春夏秋冬の四季を「初」「中」「晩」の3期に分けた。「初夏」「晩秋」といった類である。こういう前提に立つと、秋という季節の真ん中である8月の、そのまた半ばの15日、つまり8月15日は、まさに「中秋」としかいいようがない。「中秋」は、陰暦8月を意味するとともに、8月15日のことも指していたのである。
そして、旧暦は月の満ち欠けをベースにした太陰暦を基本とする太陰太陽暦。ならば、日付の進み具合と月の満ち欠けの加減は、ほぼ一致している。つまり、月の半ばの15日は、ほぼ満月といってよい日付となる。これが、いわゆる「十五夜」である。
ただ、中秋の名月は、その月が満月であるにこしたことはないが、満月でなければ名月といわないわけではない。それよりもむしろ、「8月15日の夜」であること、「十五夜」であることのほうが重要なのである。ここらあたりが、旧暦8月15日=満月ではなく「ほぼ」満月なのだというニュアンスであり、「中秋の満月」といわない日本人独特の美意識なのだろう。
空気が澄みわたる季節。秋の七草をはじめ美しい野花が一面に咲き、あたりから虫の音が聞こえてくる。こういう「良夜」の要素がそろってこその「名月」なのである。だからこそ、この月の夜に作った糸瓜水(へちますい)はひときわ美肌効果が高いとか、この月光で針に糸を通せば裁縫の腕が上がるとかといった言い伝えが、今も心に響く。
そして、「芋名月」といわれるように、夏の収穫を感謝する祈りとして、新芋や団子をこの名月に備えたのである。もちろんその後の稲の実り、豊作も願ったことはいうまでもない。