奈良公園(奈良県立都市公園・奈良公園)といえば、その実際の面積(約660ha)は別にして、とにかく大きいという印象を持つ人が多い。東大寺、興福寺、春日大社といった、修学旅行にはお約束の社寺が並び、文化施設としては奈良国立博物館や正倉院があり、それに若草山や春日山も含むとなれば、それはそのまま「あおによし」の古都奈良を象徴する地域。比類のない歴史的背景と自然が調和した、我が国を代表する公園である。
ここに約1200頭生息しているのが「神様の使い」といわれている、いわゆる「奈良の鹿」。野生のニホンジカで、国の天然記念物である。
オス、メスとも20歳を超す高齢になることもあるという。角があるのはオスだけで、8~12歳の壮年期に最も立派な角になる。この角は、1年のうちの早春のころに根元から落ち、また新たに生え始める。そして、夏ごろまでに急速に大きくなり、その枝も増えていく。そのころまでは、袋角といわれる状態だが、秋めいてくるとそれが全体に骨化し、硬い角になる。
またこの時期はオスの発情期にも当たり、オス同士で角を突き合わせて闘ったりする。もちろん気が荒くなっているので、人間にとっても危険な動物になる。危険防止のためには、その立派な角はきらなければならない。これが、奈良の秋の伝統行事「鹿の角きり」の始まりの理由である。
江戸時代初期の寛文11(1671)年、南都奉行の許可を得て、当時の鹿の管理者である興福寺が角きりを行ったのが、この行事の始まり。明治のころまでは町の袋小路などでも行われたそうだが、昭和初期から春日大社西の鹿苑(ろくえん)に「角きり場」を設け、秋の年中行事となった。今では10月前半の土曜・日曜に何回か行われている。勢子(せこ)と呼ばれる男衆が場内に角鹿を追い込み、取り押さえるという、かなり荒っぽい行事である。