秋の出羽路を旅していると、あちらこちらの河原から煙が上がっているのを目にする。はて、バーベキューでもやっているのかな、と思うと、さにあらず。河原に持ち出されているのは鉄板ではなくて大きな鍋。山形名物「芋煮会」である。山形を中心に、秋のみちのくではおなじみの風景だそうだが、他国の者にはちょっと珍しい。
芋煮会の主役の芋は「里芋(さといも)」。秋の俳句歳時記で単に「芋」といえば、この「里芋」のこと。ちなみにさつま芋は「甘藷(かんしょ)」。
収穫されたばかりの里芋を大量に使い、牛肉あるいは豚肉、きのこ、季節の野菜などを具に、しょうゆ味やみそ味で煮る。芋を煮て食べる会なので「芋煮会」とは、なんともストレートな呼称だが、庶民の楽しみとしては、それでいいのだろう。ただ、たとえば西日本の人にとっては、鍋で芋を「煮る」という言い方はどうもなじまない。それは、芋を「炊く」となるはずだが、西日本の河原で「芋炊き会」をやっているというのは、あまり聞いたことがない。あったとしても小規模で、東北の人々のように、春の花見に匹敵するような大宴会スタイルではやっていないだろう。
この芋煮会が、みちのく、東北地方に広がっているのは、秋の収穫物である里芋の保存法が未発達だった頃に始まったから、という説がある。つまり、昔、寒冷の地、東北では里芋を越冬貯蔵するのが難しく、それならば秋のうちに大いに食べておこうとしたものだ、とするもの。芋煮の集いは、たぶんに収穫祭的な意味もあったのではないか。
発祥については諸説あるが、一つは酒田市を中心に発達した最上川舟運の船頭たちの野宴鍋に発するというもの。山形県中山町(なかやままち)には大正時代まで、船頭たちの「鍋掛松(なべかけまつ)」が残っていたという。東北の中でも、この山形が、「芋煮会の本場」と称し「日本一の芋煮会フェスティバル」を催すなど、最も熱心なようである。