「お伊勢さん」と呼ばれて親しまれている三重県の伊勢神宮は、正式には「神宮」と称する。神宮といえば、近くに球場やラグビー場がある東京の明治神宮だと思っている人は多い。あるいは、愛知県の人なら熱田神宮、茨城県の人なら鹿島神宮が親しいかもしれない。しかし、ただ「神宮」といえば、実はこの伊勢神宮を指すのである。
なぜか。それは、伊勢神宮が皇室の宗廟(そうびょう)、つまり天皇の先祖を祀(まつ)るところだからである。伊勢神宮は、内宮(ないくう)と呼ばれる皇大神宮(こうたいじんぐう)と、外宮(げくう)と呼ばれる豊受(とようけ)大神宮の総称だが、その皇大神宮の祭神が皇室の祖神、天照大神(あまてらすおおみかみ)。まさにそこは神の宮殿、「神宮」であり、神社の中の神社なのである。
この伊勢神宮の主な年中行事の中で、“秋のメーンイベント”と位置づけられるのが「神嘗祭(かんなめさい)」。これは伊勢神宮の祭神、天照大神に、その年の初穂(新穀)を神の食事として奉る祭儀である。毎年、豊受大神宮(外宮)では10月15、16日、皇大神宮(内宮)では16、17日に初穂が供えられる。
この伊勢神宮の神嘗祭を奉祝して、明治28(1895)年から行われているのが「伊勢おおまつり(お伊勢大祭)」。10月中旬(07年は13~17日)の祭事期間、伊勢市全域が大いに盛り上がる。15、16日はお木曳車に初穂を載せ、法被(はっぴ)姿で木遣(きや)りを唄いながら曳いて、内宮、外宮の両宮に納める「初穂曳」という行事がある。ほかにも、伝統芸能の伊勢音頭、勇壮な神輿(みこし)、提灯車や神嘗祭奉祝のための全国各地の民謡踊りなどが出て、市民が「日本の祭りの元祖」というほどの熱気に包まれる。「神宮」の町の、豊年を祝う秋の祭りである。