日本の代表的な川魚、鮎(アユ)。秋、川に生まれ稚魚期を海で過ごし、春先、再び川に戻り、大群となって急流を遡(さかのぼ)る。夏場に一気に成長し、秋、日が短くなるにつれて産卵期に入り、下流の産卵場に向かう「落ち鮎」、「下り鮎」となる。そして、産卵後は「さび鮎」と呼ばれる黒い魚体となって、大半がそこで寿命を終える。その間、1年。「年魚」とも表記される所以である。
珪藻(けいそう)を好み、ゆえに肉に香気があるところから、「香魚」とも表記される。最大体長30cm。夏から秋の「落ち鮎」期にかけて、姿、色ともに美しい。鮎の捕り方としては、友釣り、どぶ釣りなど釣り竿によるもの、あるいは鵜(う)飼い漁などが思い浮かぶ。しかし、秋の落ち鮎に関しては「簗(やな)漁」ということになるだろう。
簗漁は「古事記」「日本書紀」にも記述が見える、我が国古来の漁法。ある程度の川幅を持つ河川流域では、各地に存続している。方法は、川の流れの河原寄りのところに、人間が数人乗っても大丈夫なような木や竹の簀子(すのこ)を設置する。これの下流側をやや高く持ち上げ、流れをせき止める形で落ち鮎がその上に乗るのを待つ。そして、鮎が簗に入れば簀子がフィルターになって水は流れていき、魚体のみが残るという仕掛けである。「観光簗場」といって、捕れたてを食べさせる施設も各地にあり、夏の鵜飼いと同様、季節の詩情を誘う伝統的漁法として親しまれている。
鮎料理の中でも、落ち鮎、つまり子持ち鮎は特に賞味される。料理法では、やはり塩焼きの熱々を蓼酢(たです)で食べるのが一番、という人が多い。他にも田楽や甘露煮、背越し、鮎飯など人気献立がそろう食材である。
秋の代表的な季題として俳句にも多く詠(よ)まれているが、料理同様に好みがあり、現代を代表する俳人が同じ「落ち鮎」を詠んで次のように違うのも面白い。
「落ち鮎の宿の灯ともりそめし頃」 稲畑汀子
「男根は落ち鮎のごと垂れにけり」 金子兜太