2002年度のアカデミー賞ドキュメンタリー長編部門にノミネートされた作品に「WATARIDORI」という不思議な映画がある。確かにそれは映画なのだが、上映時間の大半が、ただただ鳥が移動していくだけ、それもほとんどが飛翔中の映像なのだ。どうやって撮影したのか、という素朴な疑問はあるが、ひたすら飛び続ける鳥たちの姿に感動する。
撮影に要した期間が3年、世界20カ国以上の渡り鳥の生態を撮った、夢のような映画である。しかし、鳥たちはそんな人間の思い入れに関係なく、ただただ繁殖や食糧確保のために、何千キロという壮大な距離をも飛び渡っていく。その大移動の指針は、太陽や星、地磁気、地形などといわれているが、確かなことは分からないのだとか。人間にとってそれは、まさに「不思議な渡り鳥の世界」である。
基本的に、毎年、鳥が繁殖地と冬場を過ごす地域との間で定期的に大規模な移動をすることを「渡り」といい、「渡り」をする鳥たちを「渡り鳥」という。その中で、北極を繁殖地とし南極を越冬地とするキョクアジサシなどのように、移動距離(片道)1万6000kmという、とんでもない「渡り」をする鳥もいる。飛翔の速度でいえば、シギ類で時速60~80km、カモ類で80~90kmとのこと。高度では海抜7000m以上を飛翔する渡り鳥も観察されている。
日本の渡り鳥では、ツバメのように春から夏を日本ですごし繁殖して、秋に南方に帰る「夏鳥」と呼ばれる渡り鳥がいる。また、ツルやガンのように秋に北方から日本に渡ってきて越冬し、春にまた北へ帰っていく「冬鳥」と呼ばれる渡り鳥がいる。いずれも大群で移動する「渡り鳥」であり、夏鳥が南方に帰るのも、冬鳥が北方での繁殖のあと日本に渡ってくるのも、いずれも日本の秋の季節感を誘う風物詩となっている。