「えべっさん」、「いべっさん」などと呼ばれて、広く大衆に親しまれている「えびす」神。七福神の一柱で、大黒さん、弁天さんとともに、七柱の神の中でも主要キャラクターである。また、そのニコニコ顔は「えびす顔」といわれるとびっきりの笑顔。イメージとしても、釣りざおを持ち、鯛を釣り上げて大笑いしているその姿は何ともおめでたい。実にわかりやすく、庶民に人気があるわけである。ただ、この神の「正体」はわかりやすいというわけにはいかない。
恵比須、恵比寿と書かれることが多いが、夷、蛭子、戎、胡などと書かれることもある。夷といえば、もともと異郷の人、遠い国の人の意。えびす神は、異郷から漂着、あるいは来臨する神なのである。ただ、外来の神とはいえ、現在では漁業、産業、商業の守護神として日本人にあつく信仰されている。
とりわけ中世末から「えびす講」といって、えびす神を祀(まつ)る神社に参詣し、「えびす様」の像などを買い求め、それを家に持ち帰って商売繁盛を願い、親族や仲間で祝宴を催すことが盛んになった。関東、東日本ではこの参詣が旧暦10月20日に行われることが多く、それが年越し用意のための露天市にもつながっていったとのことである。
現在の日取りを見ると、東日本では11月20日前後に「えびす講」が行われることが多く、たとえば関東一のにぎわいといわれる栃木県足利市の西宮神社の「恵比寿講」は毎年11月19~20日。境内では、えびすとひょっとこが釣りざおに福餅を付けて参拝客側に糸をたらす神楽(かぐら)が奉納され、人気を集めている。また、群馬県高崎市の高崎神社でも11月20日前後に「えびす講市」が開かれて、大いににぎわう。
長野市では毎年11月23日に「長野えびす講 煙火大会」が催される。煙火大会、つまり花火大会だが、これは東日本各地のえびす講の景気付けとして明治32(1899)年に始まったといわれる歴史あるイベント。晩秋の夜空を彩る盛大な花火大会である。