関西で、「春はセンバツから」と同じく、季節感あふれるフレーズとして知られているのが「師走は顔見世から」。京都、南座の12月歌舞伎公演「吉例顔見世興行」のことである。この公演は歌舞伎界の年中行事であり、関西のファンだけでなく、全国区の人気興行だ。
12月公演といいながら、「顔見世」の初日は11月30日。江戸時代から、歌舞伎の1年は11月が始まりで、これからの1年はこの役者たちで公演しますよ、という新規の顔ぶれのお披露目興行、まさに「看板役者」の「顔見せ」というわけだ。
このことは、江戸初期に、江戸の中村座、森田座など各座(劇場)が、それぞれの役者と1年単位で出演契約を結んだことに由来する。そして、同じく江戸初期開設の京都の南座は、たとえば太平洋戦争中でさえも変わらず「顔見世興行」を打ち続け、唯一その伝統を今に伝えてきた。
この「顔見世」の象徴ともいえるものが「まねき」、つまり屋根の形が付いたヒノキ1枚の大看板である。長さ1.8m、幅32cmのこの大看板に「隅から隅まで」客が入るようにという願いを込めて、名代の役者の名前を目いっぱい大きく書く。
人気役者の名前が、歌舞伎界独特の書体「勘亭流(かんていりゅう)」で書かれた「まねき」。それが、国登録有形文化財の桃山風破風(ももやまふうはふ)造りの南座の正面にずらっと揚がると、京都は一気に師走ムードになる。ちなみに、美男や色男を「二枚目」といったり、おどけたキャラクターを「三枚目」といったりするのは、この「まねき」看板や役者の絵看板の序列が語源とか。
「顔見世」のもう一つの呼び物は、祇園や先斗(ぽんと)町など京都五花街の芸妓、舞妓たちの盛装での「総見(そうけん)」。その日、客席両側の桟敷(さじき)席は百花繚乱。チケットの狙い日でもある。
21世紀に入って、歌舞伎界は中村勘三郎や坂田藤十郎などの大名跡(みょうせき)の襲名が続いた。そういう「大興行」の折、南座のある四条大橋界隈の師走は、ひときわのにぎわいと華やぎをみせる。