神楽(かぐら)といわれるものには、御神楽(みかぐら)と里神楽(さとかぐら)がある。御神楽は皇室と関係のある神社の神事での歌舞で、12月に宮中の賢所(かしこどころ)で行われるものが代表例。里神楽は民間の神社の祭事における歌舞であり、日本各地に様々な形態が残されている。その中で、もっとも有名なものが、宮崎県の高千穂地方に伝わる「高千穂の夜神楽」である。
高千穂の夜神楽は、その年の実りに感謝し、翌年の豊穣を願う高千穂神社の神事として行われる民俗芸能で、11月中旬から翌年2月にかけて行われる。1978年には、国指定の重要無形民俗文化財に指定された。
もともと宮崎県北部の山中、高千穂地方は日本神話の里。古事記、日本書紀が伝える「天孫降臨」の地である。そして、古代のロマン香るこの地で、地元の人々によって連綿と続けられてきた高千穂の夜神楽は、日本の文化を考える上で見過ごすことのできない神事であり、民俗芸能だと位置づけられる。
つまり、この神事の舞の始まりも、日の神であり、皇室の祖神とされる天照大神(アマテラスオオミカミ)が天岩戸(あまのいわと)にこもったときに、天鈿女命(アマノウズメノミコト)が舞ったことだとされている。まさに神話の里ならではの由来話。そうした環境の中、夜神楽も「悠久の歴史」を語り継いでいるのである。
高千穂の夜神楽は、1番から33番までで構成されているが、それぞれの役どころをみても、たとえば1番の猿田彦(サルタヒコ)、18番の大国主(オオクニヌシ)、20番の伊弉諾(イザナギ)、伊弉冉(イザナミ)など、そのまま日本神話の世界。夜を徹して奉納されるこの神楽を見学するときは、客も一夜の氏子となる。古来の「しきたり」を守りながら、日本の神々、そして神話を語る里の人々とおおらかに交歓したいものである。