似たような状況でも、季節によって表現の仕方が違うのが日本語の面白さ。強風における「春一番」と「木枯らし一号」も、その好例だろう。
「春一番」は立春の後、最初に吹いた南寄りの強風のこと。日本海で発達した低気圧に向かって吹く強風である。
一方「木枯らし一号」は、晩秋から初冬のころに吹く、北寄りの強風。その中で風速が秒速8mを超えた最初の強風が、「木枯らし一号」として気象庁から発表される。ただし、それは東京と大阪のみ。また、「一号」と呼びながら、台風と違って二号、三号と続けて発表されることはない。
関東では、だいたい11月中旬ころまでには「木枯らし一号」が吹くようだ。タイミングはちょうど立冬の後。まさにその北寄りの強風は、冬の到来を告げる「季節の使者」となる。
元来「木枯らし」は、晩秋から初冬に落ち葉を誘い、木を枯らすほどの、激しい音を伴う風、というイメージで使われてきた。したがって、木の葉が落ちてしまっている1月や2月には使わない言葉。しかし、現在では、落ち葉、枯れ葉の季節だけでなく、冬季に木々の間を音を立てて吹きすさぶ強風ととらえられることも多い。このニュアンスを表すのは「こがらし」の別の表記である「凩」のほうがふさわしいかもしれない。
寒々しいニュアンスを背景にしたドラマに、1970年代の人気テレビ時代劇「木枯し紋次郎」がある。笹沢左保原作、市川崑演出、中村敦夫主演。長ようじをくわえて木枯らしに吹かれるニヒルな横顔が印象的だった。
「木枯らし」の後は、本格的な「空っ風」の季節。その冷たい季節風は、地域を代表する山のほうから吹きおろしてくるイメージが強烈で、関東では「赤城颪(おろし)」「筑波颪」、関西では「六甲颪」「比叡颪」などと呼ばれている。