「吉祥木(きちじょうぼく)」と呼ばれ、縁起がよくおめでたいとされる樹木がある。代表的なものとしては「松」「竹」「梅」。「千両」や「万両」もその仲間である。
何しろ名前がいい。千両に万両である。ついでにいえば、百両という植物も十両という植物もある。しかし、千両、万両がある限り、十両、百両では「吉祥木」とは呼ばれない。
万両と千両に限っていえば、その姿かたちや赤い実をつけるところなど、よく似ているにもかかわらず、植物学的には両者は無関係。万両はヤブコウジ科、千両はセンリョウ科に属する植物なのである。ちなみに、先の百両と十両は、万両と同じヤブコウジ科に属している。
さて、ではなぜ、それほど姿かたちに差異のない、この二つの植物が、一方は万両、片方が千両と呼ばれるような差のある呼称になったのか。その「10倍」の差は、どうも実のつき方にあるようだ。
万両と千両の差の根拠を、実のつき方におく代表的な説。ともにその実は鳥の好物なのだが、千両は葉の上に実をつけるのですぐに鳥に食べられてしまうのに対し、万両のほうは葉の下に実をつけるので後々まで実を残すことができる。つまり、実(お金)を残すほうが、万両というわけだ。
もう一つの説。千両の実は上向きにつき、万両の実は下向きに垂れ下がる。ここから、実の重いほう(お金の多いほう)が垂れ下がるのが道理だから、こちらが万両ということになったという。ついでながら、価格低く命名された百両と十両は、当然のことながら植物としても万両、千両より低い木である。
万両は関東以西の暖地に見られる常緑低木で、夏に白い房状の花を咲かせる。そして、初冬には赤い実をつける。千両に比べてやや地味だが、正月の風情にぴったりの縁起物である。