「○○始め」という表現は、何ごとかを新しい年になって最初にすることだが、「歌会始(うたかいはじめ)」といえば特に、宮中における年始の歌会をさす。
もちろん「歌」は、和歌のこと。和歌とは、本来は、漢詩に対して上代より日本で行われてきた定型の歌の総称。文字通り、和=日本の歌である。そして狭義に、五七五七七の三十一文字(みそひともじ)を定型とする短歌のことをいう。
歌会始は古くから行われてきた宮中の年始めの儀式。起源が定かではないので「古くより」というほかはないが、少なくとも江戸期以降、ここ300年ほどは、ほとんど毎年行われてきた。資料的には鎌倉時代中期の亀山天皇のころ、1267(文永4)年1月15日に「内裏御会始(だいりごかいはじめ)」という表現で歌会の記録がある。この数年後に最初の元寇(げんこう)という、そんな時代のことである。いずれにせよ、記録にはないけれど、たぶんそれよりもはるかに昔、万葉の時代から、この新年の歌会は続いてきたのだろう。
現代の歌会始の形は、1874(明治7)年に国民からの詠進(応募)を認めたことに始まる。それは、維新を経た明治初期の改革の一つである。それまで天皇を中心に、皇族、貴族、側近だけで行われてきた宮中儀式としては、画期的な出来事だったと思われる。
その後も、詠進歌から選ばれた歌(選歌)の披講(ひこう)や、天皇の御製(ぎょせい)の新聞紙上発表、選歌にあずかった人の式場参加などの改革を経て、現在はテレビでも中継されるようになった。とはいえ、古式豊かな雰囲気を残す儀式であることには違いない。宮中松の間にて、天皇皇后の前で、司会役の読師(どくじ)、歌を読み上げる講師(こうじ)などが儀式を進めていく。
歌会始への詠進については、前年に「お題」が発表され、近年は2万5000首を超える応募がある。要領は、基本的に半紙に毛筆で、というのも伝統行事らしい。
なお、歌については、皇族以外の作品を「歌」といいい、皇族の「お歌」、皇后の「御歌(みうた)」、天皇の「御製(ぎょせい)」と区別している。