1年の四季のめぐりは春から始まる。春夏秋冬、というわけである。したがって、四季をそれぞれ6分割した二十四節気のスタートは立春となる。とすれば、その二十四節気のラストの二十四節目は何か。それが「大寒(だいかん)」。そのまま冬季のラストにもなる。
読んで字のごとく、大寒は1年の中で最も寒い時季。現在の陽暦では1月20日ごろのこと。この一つ前の節が「小寒」で、1月5日ごろ。それがいわゆる「寒の入り」で、この小寒、大寒の期間を「寒中」という。「暑中見舞い」に対応する「寒中見舞い」はこの「寒中」にするもの。
まさに「寒」の季節。大寒から2月4日の立春までの約2週間が、川の水も凍るといわれる寒冷の極の一節となる。
この小寒から大寒への「寒」の時季、武道や伝統芸能の世界では「寒稽古」といわれる鍛錬をする。1年で最も寒気の厳しいこの時季に、あえてやる、いや、だからこそやるハードトレーニング。いやいや、これは英語ではなく、あくまで「稽古」といわなければ似合わない、精神性を伴う「猛稽古」である。
「稽古」が導く内容には、これまた英語ではとらえきれない「道」というコンセプトがある。柔道、剣道しかり、はたまた芸道しかりである。そして、それぞれの「道」の中で、寒気に耐えて獲得しようとするもの、それは「技術」ではなく、「心」なのである。
同種の厳寒での精進に「寒復習」「寒習い」があり、心にリンクする信心の言葉としては「寒参り」「寒詣」などがある。
芸道においては、この時季の早朝に鍛える三味線の「寒弾き」がある。また、謡曲や浪曲など声を使う芸道の人、あるいは仏道の僧侶が、寒気の中で発声を鍛える稽古をする。これを「寒声(かんごえ)」という。「お金を取れる」プロの声や、お坊さんのありがたく響く声は、こうして「大寒」の中で作り上げられるのである。