シベリア寒気団による大寒波、厳寒が続いた2006~07年の冬、懐かしい暖房器具にスポットライトが当たった。湯たんぽである。
ただ、昔ながらの容器にお湯を入れるスタイルよりも、ゲル状の保温剤を電子レンジで「チン」して使用するタイプが増えているようなので、正しくは「新ユタンポ」ブームと言うべきかもしれない。つまり、お湯を使わないからカタカナ表記にでもするしかないということ。それはさておき、このブームは、はなはだしい原油価格高騰も影響して、08年の冬も続いている。
湯たんぽは、日本伝統の暖房器具のように思われているが、もともとは中国のもの。唐代には存在したといわれ、その表記が「湯婆」。これを唐音で読めば「たんぽ」となる。「湯」が「たん」で「婆」が「ぽ」である。
この「湯婆」、湯は暖房源として説明する必要もないが、では「婆」は何か。あの器の波型がシワに見え、そこからお婆さんが連想された、というわけではない。この「婆」は妻の意。妻を抱く代わりに、「お湯の妻」を抱いて暖をとる。妻は暖をとるものだったのか?
意味的には「湯婆」という表記で暖房器具の「ゆたんぽ」を表している。したがって、室町時代に中国から渡来したときは、この器具は日本でも「湯婆」と書かれ、「たんぽ」と呼ばれたはずである。しかし、「たんぽ」と言ってもどこにも「湯」のニュアンスがない。そのうちに「たんぽ」という唐音だけが残り「湯婆」の意味は消えてしまったのである。
そうして、日本の冬にこの器具が広まるにつれ、あらためて日本語の「湯」を「たんぽ」という音の頭につけて「湯たんぽ」と呼ばれるようになったという。
これを逆に忠実に漢字に戻してみると「湯湯婆」、つまり唐音で読めば「たんたんぽ」ということになる。このあたりから、表記と読みに若干の混乱があり、代表的な辞書である「広辞苑」などでは、日本バージョンを採用して「湯湯婆=ゆたんぽ」とし、多くの俳句歳時記では元の表記と意味に忠実に「湯婆=ゆたんぽ」としている。暖かければ、どちらでもいいのだろうけれど。