立春。季節のめぐりを区切る二十四節気のなかで、立夏、立秋、立冬とともに「四立」といわれるが、そのなかでも立春は最も日本人の心になじんだ言葉である。
春の立つ日。春の始め。つまり、この日から春だぞ、と分からせてくれる日。逆にいえば、この前の二十四節気は「大寒」だから、立春は「寒明け」ということになり、寒気の季節に別れを告げる日ということになる。
そして、季節を分けるという意味で「節分」という日があるが、春の節分はもちろん立春の前日である。
ちょうど梅の咲き始める時季。「梅一輪一輪ほどの暖かさ」という服部嵐雪(はっとりらんせつ)の名句もよく知られている。
春は、四季のめぐりのなかで最初に訪れる季節である。旧暦(陰暦)、つまり太陰太陽暦では、この立春のころを正月(新年)としていた。新暦(陽暦)を使用する現在では、それを「旧正月」というが、季節感からはまさに、新春、初春という言葉にぴったりだったわけである。
また、この日、禅寺の門には「立春大吉」の文字が掲げられる。
縦書きのこの文字を見ると、左右対称。このことから、バランスよく1年間災難を除(よ)けようという願いにつながったもの、といわれている。それだけでなく、意味的にもなんともおめでたく、いい気分にさせてくれる言葉である。
冬至と春分の日のちょうど中間が立春。そして立春から立夏の前日までが「春」。「夏も近づく八十八夜」という「八十八夜」は、この立春から数えて88日目のこと。そのころが種まきの適期とされた。さらに、収穫期に台風の襲来を予想する「二百十日」や「二百二十日」も、この立春の日から起算した日。このように、立春は暮らしを左右する農事暦の大きなポイントとして重要視されたのである。