早春に花を開く梅は、古くから日本を代表する花として愛されてきた。現在、俳句の季語で「花」といえば「桜」を指すのが約束だが、万葉集、古今集の時代に花といえば「梅」だったのである。
この小さな五弁の花は、春を待ちわびる人々の心を、ぱっと明るくしてくれる。とくに平安時代以降、その香気が賞されて、多くの詩歌に詠まれてきた。
「心あらばとはましものを梅が香に たが里よりかにほひ来つらむ(もしも梅の香りに心があるのなら訊いてみたいものだ。お前はいったい誰のいる里から香ってくるのかと)」 源俊頼
古の歌人と同じ雅な心を持つ現代の日本人も、梅の開花を待ちわびている。だからこそ、2月から、日本各地で「梅まつり」が目白押しである。まず、関東近辺では水戸の「偕楽園」。徳川御三家の一つ、水戸徳川家のおひざ元で、偕楽園は幕末の名君徳川斉昭(なりあき)が造園。金沢の兼六園、岡山の後楽園とともに、日本三名園に数えられる。音に聞こえた梅の名所で、さすがに「梅まつり」(2008年は2月20日から3月末)も112回目という。徳川斉昭の別称「烈公」にちなむ薄紅色の大輪「烈公梅」、「月影」と呼ばれる青白色の上品な品種など、「水戸の六名木(梅)」を楽しみたい。
「日本一の早咲きの梅」で知られる「熱海梅園」の梅まつりは、1月14日から3月9日まで。早咲きで有名だが、もちろん中咲き、遅咲きもあり、樹齢100年を超える古木も含め、約730本、64品種の梅が咲き誇る。
東京では、梅にゆかりの天神様系で、湯島天神の梅まつりが2月8日から3月8日まで。「湯島の白梅」と謳(うた)われるとおり、白加賀という白梅が8割。下町、亀戸天神の梅まつりは2月中旬から3月中旬。こちらは境内250本の白梅紅梅が咲き香る。郊外では奥多摩の吉野梅郷梅まつりが2月20日から3月末まで。
関西では、京都の北野天満宮や南大阪の道明寺天満宮で、2月25日に梅花祭が催される。25日は祭神菅原道真公の祥月(しょうつき)命日である。