1970年代のスーパーアイドルグループの大ヒット曲ではないが、「もうすぐ春ですねえ」という気分を感じたときに吹く、ちょっと強い風、というふうに「春一番」をとらえている人も多いようだ。しかし、気象庁の「春一番」の定義は、もっと厳密である。
まず、時期の定義としては、「立春と春分の日の間」に吹く風でなければならない。つまり、2月の4日ころから3月の21日ころの間ということになる。そして、その間に吹く風のなかで、風向きが「その年初めての南よりの風」でなければ「春一番」にはならないのである。
俳句の春の季語としては、この前提だけでも十分なのだが、気象庁はさらに定義を加える。たとえば、原因としては「日本海に発生した低気圧」によるものであり、風速については、関東地方であれば「平均風速8m以上」でなければならないとしている。しかも、その風が吹く当日は「前日よりも気温が上昇していること」という条件が付く。
したがって、その風向きがちょっと東よりであったり、平均風速が7mだったりすると、それは「春一番」とは呼ばれない。
逆に、「春一番」に続いてこれらの諸条件を満たせば、「春二番」「春三番」として認定されるのである。台風並みの扱い、ということになろうか。ちなみに、初冬最初の北よりの強風である「木枯らし一号」は、一号のみが発表され、なぜか二号、三号はない。
それはさておき、この「春一番」は、もともと西日本の漁師さんの間で使われていた言葉。安政6(1859)年の旧暦2月13日、日本海に浮かぶ壱岐島の漁師53人が、突然の大強風に襲われて遭難死した。以来、この海域で働く男たちは、その時期最初の強風、「春一番」と呼んでいた強風を、さらに警戒するようになったという。そして、1950年代以降、この言葉が気象に関するニュースや新聞コラムで使われるようになり、一般化していったのである。
「春一番競馬新聞空を行く」 水原春郎
急に気温が上がる気象条件のため、海だけでなく雪崩(なだれ)など山の事故も起きやすい。「春だ、春だ」と浮かれてばかりもいられないのである。