「啓蟄(けいちつ)」については、あまり見慣れない字なので、字の意味からまず押さえておこう。「啓」は「ひらく」こと。そして、「蟄」は「蟄虫(ちっちゅう)」つまり「冬の間、土中にこもっている虫」の「蟄」。「啓蟄」はこの2文字から成っている。つまり、冬ごもりしていた虫たちに世界を開く、という意味。もっとわかりやすくいえば、冬眠中だった虫たちが春の陽気に誘われて土の中から這(は)い出してくる、そのように暖かい日がやってきた、ということである。
「啓蟄」のその日は、「大寒」とか「立春」などと同じく、いわゆる二十四節気の一つ。太陽が、黄経345度を通過する日に当たり、それがカレンダーの何日になるかは年により多少ズレがあるが、2008年の場合は3月5日が「啓蟄」である。
ただ、こうした節目の日というのは、はっきりとした季節感があってこそ印象深いもの。この日のニュースや天気予報を読むアナウンサーが、「啓蟄」のウンチクを枕に振るのをよく耳にするが、このところの暖冬傾向のなかでは「冬眠している虫なんていないよ」などと茶々を入れるへそ曲がりもいる。
それはさておき、二十四節気のルーツである中国、あるいは台湾では、この日は「啓蟄」ではなく「驚蟄」と呼ばれている。意味は同じで、もともとは同じく「啓蟄」と呼んでいたのだが、漢代に「啓」の字を名に持つ皇帝がいて、敬意を払ってその字を避けるようになったとのことである。陽気の具合としては、こちらのほうがストレートで分かりやすいかもしれない。
いずれにせよ、二十四節気でいえば、「雨水」(2月19日ごろ)から「啓蟄」、そして「春分」(3月21日ごろ)へとほぼ15日ごとに季節は移っていく。そうして三寒四温の中、柳が芽を吹き、春一番が吹き荒れ、紫外線が強くなり、本格的な花粉症の季節となっていくのである。