春先の山焼きや野焼きは、土の中の虫を駆除するため、あるいは焼けた草を肥料とするための農作業なのだが、その作業や光景そのものが季節の風物詩となっている。代表的な例として挙げられる「阿蘇の野焼き」は、近年「阿蘇の火まつり」(3月中旬~4月初旬)の一環として催事化されている。もともと農作業なのだから、観光客が近づくのは危険でもある。しかし、雄大、豪快なその光景はぜひ見てみたい、という人も多い。そこで、ある程度管理されたなかでの「野焼き」があるのも仕方なかろう、ということになったのだろう。
祭り期間中の「野焼き」については、実行委員会事務局が問い合わせ先になっているのだが、「阿蘇一帯」で「天気次第だが、どこかで」というご案内になっている。ぜひ見たいという向きは、詳しく問い合わせるべし。
「阿蘇の火まつり」は、それまで3月に個別に行われていた「阿蘇神社の火振り神事(2008年は3月21日夜)」や「野焼き」を一つの催事とすることで20数年前に始まった。そして、従来の野焼きをイベント化したものとして、3月中旬の土曜日夜に「火文字焼き」が行われるようになった。これは、京都の「大文字送り火」の「大」の字を「火」にしたようなもの。これが2カ所で行われ、見る場所によっては二つの「火」がうまくズレて「炎」に見える。世界最大のカルデラ(マグマが流れた後の地下空洞が陥没してできた凹地)のなかにある阿蘇山らしいスケールの大きさである。
「野焼き」は、「山ノ神まつり(08年は3月16、20日)」のなかで、「夜の野焼き」として行われる。ただし風の強い日は中止。こればかりはまさに天候次第なので、あしからず。
「火の山の阿蘇のあら野に火かけたる」 橋本多佳子
俳句では「野火」「野焼」「山焼」などが春の季語。野焼きをした後の黒々とした野も「末黒野(すぐろの)」という春の季語。春雨の後、末黒野に若草が萌える。