植物の世界に、アブラナ科アブラナ属というカテゴリーがある。そのなかの二年草にアブラナがある。漢字で書けば「油菜」。その日本在来種は、我々の食卓におなじみの小松菜、水菜、野沢菜、白菜といった葉菜のルーツといわれている。
「菜種」という呼び方もある。厳密にいえば、「菜種」は「油菜」の種子なのだが、一般的には菜種が油菜そのものを指すことが多い。
我々は、この植物を「菜の花」ともいう。また、菜の花はアブラナ科アブラナ属の花全体を指すときに使うこともある。
油菜=菜種=菜の花は、世界各地で栽培されているが、日本のなかでは青森県が最大の栽培地。とりわけ横浜町の一面に広がる菜の花の風景は圧巻といえるだろう。ほかにも、千葉県房総半島の菜の花畑の壮観はよく知られている。ちなみに、菜の花は千葉県の県花である。
古くから、主に油の原料用として栽培され、この時期を代表する花として、桜とともに日本人の心にしみこんだ。与謝蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」や、「菜の花畑に入日うすれ」の唱歌「朧(おぼろ)月夜」を知らない日本人はいない。
菜種梅雨は、菜種つまり菜の花が真っ盛りの3月下旬から4月にかけて降り続く雨のこと。長雨の状況をいう言葉としては、秋の「秋霖(しゅうりん)」とともに、残しておきたい日本語である。
気象学的にいえば、春雨前線の停滞が原因。ただし、梅雨どきのように豪雨になることは少ない。とはいえ、冬から春への季節の変わり目の気候。気をつけるに越したことはない。とくに関東地方では、急な冷え込みとなることもある。
このころの言葉としては「催花雨(さいかう)」もある。花を誘う雨。ただこちらは春雨一般のイメージ。催花雨、そして、しとしとと降り続いた菜種梅雨が終われば、初夏の日差し、ということになる。