京の春。円山(まるやま)公園へと桜狩客が向かう四条通り。鴨川にかかる大橋を渡れば、四条花見小路交差点の角に一力茶屋(いちりきぢゃや)がある。忠臣蔵、大石内蔵助が遊んだことで有名な、大きなお茶屋である。
ちなみに「茶屋」は「茶舗」や「茶店」ではない。芸妓(げいこ)、舞妓(まいこ)を呼んで飲食遊興をする場所のことなので、念のため。
その一力茶屋の角を下(さが)る(京都で南行きをいう)と、あたりは日本を代表する花街(かがい)・祇園(ぎおん)である。
お茶屋さんが並ぶ町並みをぶらっと3、4分で祇園甲部歌舞練場に到着。千鳥模様の紅いちょうちんが並ぶ中、「都をどりはヨーイヤサー」という華やかな掛け声が聞こえてくる。4月1日から30日までの間、この館の舞台で開催されている「都をどり」である。
都をどりは、明治維新に伴う東京遷都のあとの京都の振興を期して、明治5年(1872)に始まった。今では「チェリーダンス」として、海外にも広く知られている。
京文化の華である祇園の芸妓、舞妓が総出演で「京の美」の世界をアピールする舞台なのだから、華麗この上ない。しかも、京舞井上流の厳しい指導を受けた女性たちの芸。見ごたえ十分である。
公演会場の祇園甲部歌舞練場に入れば、可愛い舞妓さんのお点前(てまえ)があり、庭園には満開の桜。まさに京の春情緒満載だ。
花柳界による京の踊りの舞台は、ほかに先斗町(ぽんとちょう)の「鴨川おどり」、上七軒の「北野をどり」、宮川町の「京おどり」がある。開催時期は「都をどり」とほぼ同じだが、それぞれに美しい「動く絵巻物」として人気が高い。
なお、京都の「都をどり」に対抗して大正14年(1925)に東京の新橋演舞場で始まった「東をどり」は、新橋の花柳界によるものである。