東京の湯島にある「湯島聖堂」では、4月の第4日曜日に「孔子祭」が行われる。この「孔子祭」は、古く中国で行われていた「釋奠(せきてん)」という行事にならったもの。この行事は、牛や羊などのいけにえを供えて、孔子に代表されるような聖人を祀(まつ)った。現在の「孔子祭」では、生鯉、野菜、酒などを供え、孔子とその学問を称える祭事になっている。
孔子(紀元前551~479年)は、中国春秋時代の学者、思想家。儒教、儒学の祖師として広く知られている。
「四書五経」を経典とする儒教は、儒学ともいわれるように、宗教というよりも政治や道徳にかかわる学問といったほうがよいかもしれない。後漢(25~220年)の時代に権威と地位を確立。宋代(960~1279年)に儒学の一体系である朱子学が起こり、以降、それは中国の思想の中核となった。
日本においては、江戸時代初期の儒学者で、藤原惺窩(せいか)に朱子学を学んだ林羅山(はやしらざん)が、徳川家康以後四代の将軍の政治顧問となり、重用された。このことにより、儒学、朱子学は、武士の学問の基本となったのである。
とりわけ、五代将軍綱吉は「文治政治」を目指して儒学の振興をはかり、上野の林家にあった孔子廟と塾を湯島に移し、「湯島聖堂」を創建。学問の聖地としたのである。これが元禄3年(1690)のこと。孔子祭は、この直後の元禄4年から始まった。綱吉は「生類憐みの令」によって「犬公方(いぬくぼう)」のイメージが強いが、学問好きの文治政治家でもあったのである。
なお、林家の塾は江戸後期から「昌平黌(しょうへいこう。昌平坂学問所)」という幕府の官立校となり、その「学校」としての流れは東大につながる。そして、跡地の大半は現在、東京医科歯科大学湯島キャンパスになっている。